「東京奇譚集」を読む

東京奇譚集

東京奇譚集

「イオンじゃ何も買う物がない」とボヤキながら,村上春樹の新刊が出ていたので購入してしまった。前作「アフターダーク」が今ひとつで,今回の新作には生ぬるい期待しか抱いてなかったのだが,いざ書店で見かけると即買い(^_^;)。
読み始めてからおよそ1時間で読み終わった。1,470円で1時間か・・と,ペーパーバックと比べて楽しめる期間が短いのが哀しいが,この本は何回も読みたくなるだろうし,元は取れると思う。
東京の電車や喫茶店でたまたま隣り合わせた人が,実はこういう生活を送ってるかもしれない・・地下鉄サリン事件の被害者の方々へのインタビュー集「アンダーグラウンド」を読んだとき,地下鉄の乗客それぞれにこんな人生があるのかと唸ったが,その方向を少し変えてフィクション化したような感じ。以下は,ざっと一読した限りの雑感。

  • 「偶然の旅人」 :偶然の出来事に導かれてしまう作家オースターを彷彿させる内容。ゲイの調律師の生活スタイルがいい。いつもながら,こういう素敵なルーティンを淡々と実行している人の話を読むと,気持ちが引き締まる。
  • 「ハナレイ・ベイ」 :深く愛してはいたが人間的には合わなかったという一人息子をハワイで亡くした,ダンカイ世代の女性サチの物語。夫はいない。一人で生計を立て,一人で子育てをし,現実と向き合い,また一人で生きていこうとする潔さに圧倒される。
  • 「どこであれそれが見つかりそうな場所で」 :今ひとつピンと来なかった。
  • 「日々移動する腎臓のかたちをした石」 :「男が一生に出会う中で,本当に意味を持つ女は三人しかいない」という父親の哲学によって人生に呪いを掛けられた淳平君の話。彼が最終的に導き出した結論は,平凡でありながら大事な教訓となりそうだ(自分にとっても!)。
  • 品川猿」 :羊男,みみずくん,かえるくんに続き,今回は「猿」だ。「うなぎ説」なんてのもあったから,うなぎくんも入れていいだろうか。突然自分の名前が思い出せないようになってしまったみずきさんのお話。名前といえば,ラヒリの "The Namesake"では,子供から見た自分の名前の重さ,その名で生きるということについて考えさせられたが,ここでは失いかけた自分の名前を取り戻すことで,自分の人生そのものを受け入れ,向き合っていこうとする姿勢が描かれている。