「語るに足る,ささやかな人生」を読む
- 作者: 駒沢敏器
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2005/07/27
- メディア: 単行本
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最近読んだアーヴィングの「サイダーハウスルール」には,'50年代のメイン州の田舎町で,ホーマー・ウェルズがウォーリーとキャンディに連れられて生まれて初めてドライブインシアターを体験するシーンが何気に出てくる。しかし,ドライブインシアターという舞台によって,作家が伝えようとしている空気が今ひとつピンと来なかった。ただそれだけで伝えられるべき何かがあるのは感じられるのだが,それが上手く掴みきれず喉元でモヤモヤとしていた。
それがこの本で,サウスダコタの草原にそびえ立つドライブインシアターの巨大なスクリーンとそれに纏わるストーリーを読んだとき,ああそういうことかと少しだけ理解できたような気がした。
その他にも,今なお馬で牛を追い続ける本物のカウボーイや絶品ナマズフライレシピのルーツといった,読むとアメリカが好ましく感じられること間違いなしの小さなストーリーが満載である。そして,たとえ人口1000人足らずの何の変化もないスモールタウンで生まれ育ち,一度も州を出たことのないような人生であっても,そこからきちんと真っ当に生きるとはどういうことかがわかる。それが,感情を抑え丹念に選ばれた言葉で綴られているのも魅力だ。
少しでも関心を持たれたなら,一読あれ。きっと後悔しないと思う。