Paul Theroux "The Mosquito Coast" 49~111p -2

アリー・フォックスはまったくどこまでも鼻持ちならない男だけれど、彼の言うことにはもっともだと思われる点もある。が、だからといって、ここまで自分の信念に家族を巻き込んでしまうのは理解しがたい。父親の完全影響下で育てられた子どもたちは、学校に通わず家庭で彼の考える「まともな教育」だけを施されているのだが、長男チャーリーは密かに学校に通う「普通の子どもの生活」に憧れ、父のような教養がないことにコンプレックスを抱いている。確かに父親は天才的な発明家であり、尊敬するに値する部分もあるのだろうが、父親を「天才」だと信じることでしか自分の価値が見出せないような状態は、あまりに危ういのではないか。自分の子どもといえど、子どもは自分自身とは違う存在だ。ここまで子どもの人生を自分の価値観に縛り付けてしまう父親像には、脅威を感じてしまう。