John Irving ”A Son of the Circus” 653~682p -26

  • 読了直後の感想

なんとかひと月内に読了できた(ホッ)。
アーヴィングの法則 :冒頭、奇妙な設定で度肝を抜かれ、そのままアーヴィング世界にハマっていく →ずるずる →唐突な死かショッッキングな出来事 →それでも生きていく主人公 →後半部で畳み掛けるように泣かされる
・・なーんて(-.-)。今回の設定もまた、いつもにも増して強烈だった。主人公はカナダ在留の整形外科医だが、インド出身で実は祖国では悪名高い人気シリーズの映画の脚本家である上に、半ば趣味的に小びと(ドワーフ)の遺伝性を調べるためにインドのサーカス団で彼らの血を集めているという。いくらなんでもやりすぎじゃないのと思いながらも、ぐいぐい読まされてしまうのはさすがである。が、最後の泣かせはもう一つで、淡々と終わってウームという感じ(なんのこっちゃ)。

  • 翌日の感想

このところ英米へのアジア系移民が書いた文学に凝っていたのだけれど、この作品はそれらと一見似ているようで非常に趣が違う。なんせ、作者はアメリカ人のアーヴィングだし、描かれているのは、カナダに移民したインド人がインドに帰国したときの姿なのだから。主人公のダルワラ医師は、トロントに拠点を置きながらも、そこでは移民として違和感を感じ続けているし、故郷であるはずのボンベイにも帰るたびにうんざりするという、身の落ち着き場所がどちらにも定められない状態で生き続けている男だ。
インド移民がカナダで感じる違和感をアーヴィングが描こうとしたところで、嘘くささが出るのは免れないだろうし、面白くもなんともない。その点、心の置き場の定まらぬ男の故郷での生活を描いたという着眼点が鋭い。主人公が、インドでは少数派のゾロアスター教を信じるペルシャ系出身という点に加えて、キリスト教に転向したという設定も巧みだ。このことによって、彼の故郷に対する客観的なモノの見方が不自然でなくなり、アーヴィング世界の主人公として持ち味を発揮することができるようになったのだと思う。この微妙な危うさが面白く、そういう危うい設定で、いつものアーヴィング的世界がどう展開するのかというところも興味深かった。
最後の落としどころは少々物足りないように感じてしまったけれど、ダー警部や双子のイエズス会教徒、エキセントリックだった父親やダー警部に執着するオカマ等々、主人公を取り巻く多くの人々が最高に楽しかった。いつもと少々趣の違うサスペンス仕立ても悪くない。これだけの長編なのだから、そういう細部を楽しんでおればそれでいいんだろうなぁ。その上、最後で泣かせてくれよと思ってしまうのは、読者のワガママなんだな、きっと。