Paul Auster "Moon Palace" -8

昨日,第2章を8ページほど読み進めた。
アパートを追い出されてから,リュック一つを背に見知った顔に出会う確率の少ない南へと向かう。相変わらずズタボロのマーコだが,コロンブス広場の時計屋前で10ドル拾って,生きる望みのようなものを取り戻す。その金で気分よくコーヒーショップに向かい,3本立ての映画を観て時間を潰すのだが,うち1本が幼い頃伯父さんと観た「80日間世界一周(ASIN:B0002B549Y)」だと気づく。主人公フィリアス・フォッグとマーコの苗字が同じであることから,伯父さんはマーコのことをフィリアスと呼んでいた。それだけに,相当な思い入れのある映画だったのだ。伯父さんが今の自分を見たら…,ああ僕は地獄に頭を突っ込んでるような死人だ,とまた自己嫌悪に陥るマーコ。さらに映画を観た後は行く当てもなく金もなく,セントラルパークで野宿でもするしかないと覚悟する。
本日,引き続き4ページほど。
いよいよ野宿生活の始まり。当初は不安だった野宿生活だが,次第にその心地よさに馴染んでくる。路上では自分のみすぼらしい姿を客観視せざるを得ないが,公園ではそれが必要ない。従って,思う存分自分の世界に浸っていられるのだ。さらに何度か,見ず知らずの他人から,お金や食料をもらう機会にも恵まれる。そこから彼が導き出した哲学がこれ。
Good things happend to me only when I stopped wishing for them.
まぁ,ここまではその立場に置かれた人なら,誰でもふと考えてしまうことかもしれないが,マーコの場合,
As long as I worried about my problem, the world would turn its back on me.
と,その思考をさらに突き詰めていく。そして「お腹が減って何か食物が欲しいときほど,食物のことを考えないようにする」という境地に達する。「念ずれば花ひらく」の裏バージョンをとことん追求いくというわけだ。自分の思考によって神の恩寵を我が物にしようとする彼の試みは,果たして成功するのか?ここで「そこまで難しいこと考えるんだったら働けよ」というアドバイスが,彼には一切通じないことは言うまでもない。