「奥さまは官能小説家」を読む

奥さまは官能小説家 (幻冬舎文庫)

奥さまは官能小説家 (幻冬舎文庫)

作者は'71年生まれの官能小説家。この本は,手っ取り早く言うと「官能小説家の妊娠・育児体験談&人妻観察記」。
作者のオットはパソ通(当時)で知り合ったという東大大学院卒業(…はしてないのかな?)のジャニーズ系イケメン男。と聞けば,ああ幸せでよろしいですなぁと思いがちだが,実はそうでもないらしい。結婚当初は学生だったので,生活は文字通り駆け出し作家だった作者の両肩にかかっていたようだし,異常性格母から受けてきた暴力のせいで,彼も妻である作者に暴力をふるうようになったという。さらに作者自身,父親からは性的虐待を受け,母親からは「とにかく一番でなければ意味がない」という教育を受けて育ち,いろいろと辛いトラウマを抱えて生きている。
そんな官能小説家の生活ぶりや悩みがセキララに綴られているところがまず興味深いし,彼女が出会った様々な主婦たちの記述もおもしろい。そう,彼女は官能小説家であることを隠しながら,社宅ぐらしまでしているのだ。また世間の主婦たちと同様,早期教育や自然食品にハマっちゃうし,公園デビューや社宅でのお付き合いに悩んだりもする。
そうこうするうちに,当初は「主婦」に対し否定的であった作者が,だんだん「主婦」づきあいのおもしろさに目覚めていくところは,自分自身にも思い当たる節があるだけに「納得」であった。

主婦というのは,個性がなく,毎日同じような話題しか喋っていないに違いない。そんな人たちと関わったって,何にもトクがない。私は作家なんだから,ギョーカイの人たちと遊んでいる方がウマがあって楽しい。だって私って個性的なんだモーン!
けれども,そうした色眼鏡をはずして,奥さま方と腹を割って話したりしてみると,あらあら!だった。皆,それぞれに個性があるし,いろんな家庭の事情や悩みを抱えて生きている。型にハマっている人などひとりもいないのだ。

…そうなのだよ。わかるわかる。常識に欠けた主婦に振り回され,怒りをぶちまけるようなことは相変わらず多々ある。しかしそれも「中」に飛び込んでこその話。嫌なこともあるが楽しいこともいっぱいあるのだ。なんにせよ自分が主婦である以上,主婦をバカにしながら孤独でいるよりはずっと楽しいよね。でもって,主婦仲間とベッタリしすぎて自分を見失うこともなく,そこそこ皆と上手に付き合う作者の距離の取り方にも好感を持った。
以前読んだ,青木るえかの「主婦でスミマセン (角川文庫)」も衝撃的だったが,これもなかなか。どっちも「主婦づきあい」にちょっと疲れた時など,お薦めだ。