Paul Auster "Timbuktu" 72~83p -8

なおも「ハエ」のMr.Bonesが病院での成り行きを見守っている。Bea Swansonとの一晩の幸せな語り合いを終え,翌日静かに命を終えるWilly。
そのとたん,「ハエ」のMr.Bonesは「犬」に戻り,夢も覚める。夢か現実か混乱させられたが,やはりこれは「夢」だったのだ。現実世界に戻ったところで,それが本当に現実なのか別の夢なのかわからない。Mr.Bones自身,混乱してなんとかその夢から目覚めようと試みるが,できない。現実に戻ったのは間違いないようだ。しかしその現実は,たった今自分が見ていた夢に酷似している…
It wasn't that they were exactly the same--at least he didn't think they were--but they were close enough, close enough.
混乱のあまり,自分がそのまま狂っていくのではないかとまで思い詰めるMr.Bones。「犬」としては,既に夢で聞いた話を「主人」が新たに語るのを,ただ聞くしかない。特筆すべきはWillyのルームメイトと犬用タイプライターの話。ルームメイトがPaul*1と呼ばれていることから,これはもうPaul Austerなのだろう(NY Trilogyと同じ手法だね)。
犬用タイプの持ち主は,Paulが叔母とともに偶然知り合ったというトーマス・マンの娘だという。この挿話の前に,WillyはPaulのことをhe always gave it to you straight from the horse's mouth/いちばん確かな筋から直接言う(馬の本当の年齢はその歯を見れば知られることから出てきた表現)と評している。…となるとこれは,オースター自身が直接体験したか,確実な筋から聞いてきたリアルな話なのかもしれない。
そして引き続き,盲導犬の話から「犬共和国独立」の話などをWillyが蕩々と続けているうち,例の2人組警官がやってくる。Mr.Bonesの夢どおり。主人の顔をペロッとひと舐めし,Willyに頭をポンポンと叩いてもらうと,すぐさま駆けていくMr.Bones。あたかも明日は二度とやって来ないかのごとく。ってなところで第三章へ突入。

*1:Mr.Bonesの夢の中ではOmsterとかAnsterと呼ばれてた