主人公は僕だった

定期健診を受ける夫を日赤に送った足で、ちょろっと衣山のシネコンに寄った。5月は、「スパイダーマン」やら「パイレーツ・オブ・カリビアン」「ゴール」など、息子といっしょに見てきたシリーズものの続編が目白押しだけに、いわゆるハリウッド大作っぽくない映画が見たいなぁと。
舞台はアメリカ。主人公ハロルドは国税庁に勤める・・・たぶん20代後半か30代前半くらいの独身男性。毎日毎日、時間どおりに起床し、同じ回数だけ歯を磨いて同じバスに乗り、毎日同じだけの仕事をこなして、同じ時間に帰り、同じものを食べて、同じ時間に寝るという人。いずれも彼自身が効率的だと考えた数値に基づいているだけに、決して揺るがない。数秒の時間を惜しむがゆえに、敢えて首が太く見えるシングルノットでネクタイを結ぶというあたりに、彼の価値観が垣間見える。見た目もセンスも、え?というくらいイケてないが、間違いなく実直でいい人なのだろう。
そんな彼の元に、ある日どこからか自分の行動をナレーターのように三人称で語る声が聞こえてくる。最初はさして気にかけなかったが、声が彼の死を語るに至って危機を感じ始める。が、医師に相談するも精神失調症と決め付けられてナシノツブテ。行き詰まったあげく文学の専門家に助けを求めるのだが、この教授がまた、ハロルドの対極みたいに人生を謳歌しているタイプだ。付きまとうハロルドを追い返そうとするが、
Little did he know that this simple, seemingly innocuous act would lead to his imminent death.(この単純で退屈そうに見える日常の裏側で、死が差し迫っているということを、彼は知る由も無かった)
という語り手のセリフを聞いて、一転、彼に協力するようになる。つまり、ハロルドの人生は彼自身のものだけではなく、どこかの作家が作った小説の一部でもあるかもしれないというわけだ。その作者を突き止めることによって、彼も過酷な運命から逃れられるかもしれないだろうと。
が、その小説家も同じ時間軸の中で生きていて、自分が書いている小説の主人公が現実に存在するなど、夢にも思っていない。それも、これまで自分の作品で必ず主人公を殺してきたという曰くつきの作家で、10年間新作が書けず、相当精神的に危ない状態に陥っている。今どきこんな人いるのかと思うほど酷いヘビースモーカーだし、主人公を殺すネタを搾り出すために救急病院で死に掛けている人を捜し求めたり、高層ビルの屋上の端に長時間佇んだり。。
さらに、こんなハロルドが恋をしてしまうのだが、相手は自分のことを忌み嫌う調査相手。しかもハーバードドロップアウトで、政府の防衛政策に納得できないからその分税金を払わないという筋金入りの人。
・・・などなど、出てくる人物にそれぞれ強烈なインパクトがあって面白かったです。ハロルドの恋愛はちょっとできすぎの観もあるけど、それも製作者サイドの計算どおりなのかなぁと(そう思わされる脚本の巧みさ、なんて)。全体的にブラック度は低めなので後味が良かったです・・・けど、それが物足りないと思ってしまうのは、精神的にちょっとマズいかもυ