Paul Auster "Timbuktu" 100~113p -10

鈍くさそうな鳩さえ捕らえることができず絶望するMr.Bonesだったが,地面に落ちたアイスや置き忘れられたケンタッキーフライドチキンを食べて,なんとか一息つく。と,今度は12才くらいの少年6人グループが絡んでくる。最初はオヤツをもらったり一緒に遊んだりと楽しくやっていたが,ちょっとしたことから彼らの好意が敵意に変わり,最後は散々な目に遭う。
次に近づいてきたのが,11才の中国人少年,Henry Chow。先ほどの失敗から警戒するMr.Bonesだが,どうやら今度の男の子は大丈夫ならしい。
This kid meant him no harm, and if Mr.Bones was wrong about that, then he would turn in his dog badge and spend the rest of his life as a porcupine(ヤマアラシ).
HenryはMr.Bonesを自宅に連れて帰ってくれると言うが,その「家」の条件が悪すぎる。自宅は店舗兼住宅で2階が住居。両親(特に父親)は相当な犬嫌い。しかもその「店舗」というのが中華レストランなのである。Willyが散々近づいてはいけないと教えてくれたところ。中国人は犬を食べるのだから,と。Henryは大きなダンボールを裏庭に用意するので,そこに隠れていてと言う。庭といっても,錆びた冷蔵庫と腐食したスチール棚がうち捨てられた小さなスペース。ダンボールはフェンスのそばに置かれ,家の方から見つからず上手く外に出られるよう工夫されている。さらにHenryはダンボールの側にラディッシュの種を植え,その手入れをするという名目で,頻繁に裏庭に出入りすることを怪しまれないようにするという念の入りよう。迷いに迷うMr.Bonesだが,結局は彼と運命を共にしようと決意する。
こうして始まったダンボールライフ。Mr.Chowが裏庭に出てくる度にひどい恐怖を感じるし,毎晩ダンボールの中で寝るのも非常に辛いが,日中Henryといっしょに街を散歩するのは楽しいし,なにより毎日すばらしい中華料理を口にすることができる。ただ,ときに辛すぎる料理があったり,正体不明のスープを見ては,もしやこれは同志の肉が入っているのかもしれないなどと怪しむこともある。しかもつい誘惑に負け,気がつくとすべて平らげては自責の念に駆られること度々。
…he would tell himself that if this was to be his fate as well, he only hoped that he would tastel as good as the thing he had just eaten.
そう,いつかは自分も同じ運命にあうのかもしれない。食える時に食っておけと。しかしこの生活も,夏が終わりHenryが学校に行き始めるようになると一変する。もう日中散歩に出ることはできない。そんなある晩,Mr.Bonesの前でHenryが泣きながら自分の不甲斐なさを訥々と訴える。「犬」には彼の言うことのすべては理解できないが,その気持ちは痛いほどにわかる。Such is the way with dogs.ずっと孤独でいた自己内省的な少年Henryにとって,Mr.Bonesは最初にして唯一の友達だったのだ。その夜は狭いダンボールの中で,共に抱き合いながら眠る「犬」と「主人」。
しかし翌日,夢は覚める。突然ダンボールが持ち上げられ,Chow夫婦の金切り声が浴びせかけられる。Henryも叫び続ける。それを見て,そっとその場を立ち去ろうとするMr.Bones。Don't leave me!と叫ぶHenryの声を背に,行く当てもなく走り続ける。Henryには未練があるが,もはやどうしようもないのだ。何一ついいことのなかったBaltimoreの街を後にするMr.Bones。第4章へ。