Paul Auster "Oracle Night" 24~38p -3

話は本筋に戻る。主人公Orrと妻Graceはbiweekly/隔週ごとに56歳の作家John Trauseと食事をともにしている。ある時Johnから,突然足に静脈瘤ができたので食事はキャンセルしてくれという連絡が入る。しかしその後,再連絡が入り,結局,彼の自宅で中華料理をケータリングしてもらって食事を共にすることとなる。
Johnは,裁判官だったGraceの父親と共にプリンストンで学び,第二次大戦に参加した。その後もずっと家族ぐるみの交際を続けてきたという。'52年から'75年までに6冊の小説を出版してきたが,もう7年以上新しい作品を世に出していない。bluebloods/名門出を鼻にかける女性だった最初の結婚相手,Eleanorとは不肖の息子Jacobができたものの離婚。2人目の相手Tina Ostrowは,12歳年下のダンスの振付師。彼女は素晴らしい人物だったが,uterine cancer/子宮ガンで37歳の誕生日を迎える前に亡くなってしまう。それ以来,Johnはパリ,ローマ,ポルトガル各地を転々とし,'78年にNYに帰ってきた。それから4年,今もなお何も著そうとしない。少なくとも何かを誰かに表わそうとはしない。
But he was working. I knew he was working.
とOrrは感じている。
Johnの膝はひどい状態で,この数週間,夜も眠れず身だしなみも整えられていない様子が明らかに見て取れる。痛みを和らげるためか異様に速いピッチで酒を流し込みながらも,足が痛み始める一週間前にTinaの弟Richardと食事をしたときの話を2人に語る。Johnから見ると,Tinaの親族には彼女以外にガッツのある人物がいないという。
She was the only one with any sprit, the only one who'd had the gumption(ガッツ) to break out of that little New Jersey world and try to make something of herself.
Richadもパッとしない仕事に就いていて,余暇は1日テレビを見て過ごすというタイプのあまり興味の湧かない人物なのだが,唯一,自分と同じくらいTinaを愛していたという点だけは,Johnも評価している。Richardから食事を誘われたときもまったく乗り気でなかったのだが,その予想は嬉しいことに大いに外れたという。
It always stimulates me to discover new examples of my own prejudice and stupodity, to realize that I don't know half as much as I think I do.
久しぶりに見るRichardの顔にTinaの面影を見出し,思わずキス(それもfull-bore osculation/濃厚なヤツ)までしたくなったほどだとか。その時Richardが語ってくれた話にも,激しく心を動かされる。
以下,Richardの話:ある日彼は自宅のガレージで探し物をしていて,子供の頃に使っていた3-D viewer('50年代にcraze/大流行したflimsy/ちゃちなモノだ)を発見する。そこにはなんと,およそ30年前のTinaの16歳の誕生パーティを撮したフィルムが残っていた。そこに映っている人々は既に亡くなった人ばかりだ。
He had the impression that if he'd looked a little longer--just one more moment--they actually would have started to move.
それはあくまで過去の遺物に過ぎない。だが,その中で自分だけが唯一生き残っているという現実に,彼は涙を止めることができなかった。その後も夢中になって3-D Viewerを覗き続けていたのだが,それが最近になって突然壊れてしまった。そこで何とかNYでそれを修理してくれる人を見つけてもらえないだろうか,とJohnに相談を持ちかけてきたわけである。このような凡庸極まりない男がphilosophical dreamerになりうるという事実に感動したJohnは,何とかしてやろうと決意する。
しかしその後,Richardから修理の件はもう結構という連絡が入る。思えば自分は過去のことに囚われすぎていた。妻の機嫌もかなり良くないし修理はもういいよと言う。
You have to live in the present, right? The past is past, and no matter how much time I spend with those pictures, I'm never going to get it back.
ガッカリだと言うJohnに,Graceはそれで良かったのではないかと反論する。そのままだとRichardは深刻な鬱になっていたかもしれないと。