「ヴェネツィアの宿」読了

須賀敦子さんの本を読んだのはこれが初めて。取っつきでブルジョアっぽさが鼻につき,有り余る財産で好きなことだけをさせてもらっているお嬢さんのお話かいなと思ったが,とんでもなかった。怪しげなローマの寮で精神を壊してしまった韓国人ルームメイトのために奔走したり,愛人の元に走った父が放り出した家庭を切り盛りしたり。幸運な星の下に生まれたのは間違いないだろうが,それで収まっている方ではない。危篤の父親にオリエント・エクスプレスのデミタスカップを見せるくだりでは,思わず涙。神谷美恵子さんの本を読んだときのような清々しさと圧倒的な生きる力を感じた。これだけパワフルに生きていても,決して鼻息荒くするようなことはない姿は見習いたい。彼女の著作をもう少し読みたいと思う。