ラースと、その彼女

何らかのトラウマを抱えていると思われる内気な、しかし皆から愛されている心優しい青年が、ある日紹介したいと連れてきた彼女はなんと人形でした、というお話。一見コメディと思いきや、「ギルバート・グレイプ」や「ドク・ハリウッド」を彷彿させるスモールタウンストーリーだった。
ラースは人形のビアンカを、足が不自由にもかかわらず遠い国からやってきて財布を盗まれた気の毒な女性として愛し、甲斐甲斐しく世話をする。異様だ。が、家族や街の人はそんな彼をありのまま受け入れ、ビアンカに対してもひとりの人格ある女性として接する。そんな街の人たちの姿には、ただ温かいというだけでは片づけられない独特の違和感があり、館内でもクスクス笑う人と涙ぐんでる人にはっきり分かれているようだった。
私自身は切なく感じた口。離れて久しい自分の街や失った家族、優しさと鬱陶しさが入り混じった子供時代そのものを覆っていた空気みたいなものが、映画にオーバーラップしてしまったというか。
赤ん坊のころから自分のことを知っている人たちにやんわりと囲まれ、父や母を失った家で生き続けるということの重み。そこから逃げなかったラースはそのために自分を損なってしまったけれど、同時にその街によって救われるという、信じられないけれど信じたいような世界。
何かがじわっと残る映画だ。