Paul Auster "Moon Palace" -12

二日ぶりに「ムーン・パラス」を読む。第三章を10ページほど。この辺りまで読み進めると,話中の雰囲気が自分の中でしっくりしてきて,ようやく読みがスムーズになるという感じ。(^_^)
親友ジンマーの下宿にひと月以上世話になり,ぼろくずのようになった体を癒すマーコ。ジンマーとて決して裕福ではなく,自分を預かることで彼に大変な負担を負わせていることがわかる。それだけに彼の労りと親切が心底身にしみ,自分の行為がいかに彼を傷つけたかということにも気づく。そして,
More than anything else, I felt a need to purify(浄化する) myself, to repent(悔い改める) for all my excesses of self-involvement(自己愛着). From total selfishness(自分本位), I resolved to achieve a state of total selflessness(無欲).…(中略)…I wanted to turn myself into a saint(聖人), a godless saint who would wander through the world performing good works.
と,ついに自ら思想を悔い改めるに至る。だが彼の行く手には,再び大きな試練が立ち塞がる。それは,伯父さんのクラリネットケースに入っていたdraft board(徴兵委員会)からの手紙であった。なんと徴兵検査の期日は,手紙の存在に気づいた日の翌日。歩くことすら,ひとりではままならないような状態だが行くしかない(でなきゃ刑務所送りなのだ)。ジンマーに送ってもらってなんとか会場にたどり着き,まずはペーパーワークに取り組む。自分が所属している組織を示せという指示に対し,彼がチェックしたのは…
SDS(Students for a Democratic Society):民主社会のための学生連合(60年代の新左翼学生運動組織)
SANE:57年に設立された,核実験反対・世界平和を唱える米国の民間組
SNCC(Student National Coordinating Comitteee):学生全米非暴力調整委員会
…となかなかスゴイ。逮捕歴もあったりする。次はいよいよ健康診断だが,なんといっても180センチを超える長身に50キロそこそこの彼である。あまりの異様さに精神科医のチェックを受けることとなる。今ではすっかり心はsaintのマーコ,精神科医に向かって,母と伯父さんの死から,それに続く極貧生活,そして公園での放浪生活まで,ありのままを話す(ああ彼は切に理解を望んだのだ)。だが,彼が懸命に話せば話すほど,医師は理解不能という表情を露わにしていく。しかし最終的には,この医師のおかげでめでたく徴兵の難を逃れることとなったのである。こりゃ,ホンモノの○○だと。この太鼓判がなければ,危険思想の持ち主として本格的でタフな調査を受けなくてはならなかったのだ(徴兵免除って本当に大変…)。不幸中の幸いというにはあんまりな話ではあるが,やはり良かったねと言うべきなのであろう。